電脳経済学v5> d経済系2> d60 経済体制と財の形態
(一部改訂:2004/07/14; 一部追加:2005/01/14; 2009/01/21; 2009/01/25; 2010/08/11)

図d60 経済体制と財の形態
図d60-2 自由度と思想傾向の関係

図d60 経済体制と財の形態

図d60-2 自由度と思想傾向の関係

d60-1 なお再考を要する経済体制のあり方
戦後世界における東西対立は資本主義vs社会主義の体制優位性を巡る争いでした。その結果、1989年の東欧革命に端を発し1991年のソ連邦の崩壊に至る一連の流れを通して計画原理から市場原理への道筋が開かれました。しかし体制問題がこれで決着したとはいえません。経済格差に起因するその後の社会的緊張は周知の通りで地域紛争や宗教対立さらにはテロリズムや凶悪犯罪と形を変えてその影響は今日に至るまで世界の隅々にまで及んでいます。そして市場原理に基づく資本主義経済の脆弱性が2008年のfc金融危機において一気に露呈しました。この時代状況のもとで私たちは
経済体制の再考を迫られています。前記の文脈を図d60経済体制と財の形態として整理しました

d60-2 緩やかな社会制度としての協議経済
経済体制は財の所有形態が私有か公有かとその調整原理が市場か計画かによって、これまで私有-市場による資本主義と公有-計画による社会主義に二分されてきました。しかし現実には両者の中間的な混合経済体制が広く行われてきました。なぜなら家計部門にまで計画原理を適用することも政府部門にまで市場原理を適用することも現実にそぐわないからです。これは財の属性に対応して定まるべき性格のものです。
今後の経済体制として図d60に示すC協議経済の領域が考えられます。協議経済の用語は仮称ですが提案経済系の構想に準拠した緩やか社会制度を指します。これからの地球社会は従来の思考法では説明も対応もできません。蛇足ながら調整原理(フロー)に比較して所有形態(ストック)の論議は等閑視されています。図d60に明らかなように協議経済はケインズ経済の対極に位置し、これには民主的な倫理意識が前提となります。

d60-3 自由度と思想傾向の関係(2010/08/11追加分)
図d60-2自由度と思想傾向の関係を追加したので説明を加えます。混迷を深める現代社会のよすがとなるべき政治哲学が注目されています。発端はNHKで放映されたマイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」における正義を巡る問題提起にあります。政治を社会正義の実現装置と考えれば現代地球社会を覆う閉塞状況と正義との絡みに整序がつきそうです。しかしここではそれは横に置いて図d60と図d60-2の対応関係の説明に絞ります。
図d60はX軸に財の調整原理(分配原理ともいう)をY軸に財の所有形態をとり経済体制を両者の関係性として表します。一方、図d60-2は下記参考資料(2)p40を簡略表現したものです。それはX軸に経済的自由度をY軸に政治的自由度をとり政治思想をその座標上に示します。両図を対比すると@からCまでの象限位置がそれぞれ対応しています。これは次のように整理できます。(1)政治的自由度は財の所有形態に対応する。(2)一方、経済的自由度は財の調整原理に対応する。(3)自由を標榜する普遍主義の内実は価値観の強要に通じる。(4)正義もまた真理と同様に選択の問題に還元できる。(5)人間意識に依拠する政治思想は絶えず揺れ動いている。(6)したがって理想の現実化あるいはこの逆には時空文脈が鍵概念となる。(7)これらを踏まえた国際秩序思想の理念提示が期待される。(8)環境問題の深刻化や天変地異の頻発が前記への取り組みを加速させる。

d60-4 参考資料:
(1) 『これからの「正義」の話をしよう』 マイケル・サンデル 鬼澤 忍=訳 早川書房
(2) 『週刊東洋経済 8/14-21合併号』 東洋経済新報社