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(当初掲載日:2003年08月11日 )( 一部修正日:2003年08月18日 )

C23: インターネット検索で電脳経済学のホームページにアクセスした工学部の学生です。熱力学について勉強していますが次の点がどうしても分かりません。ご教示いただけないでしょうか?
C23-1:カルノーサイクルを逆転させる、という方法以外で、低温から高温へ熱を移動させるには、どうしたらよいのでしょうか?
C23-2:第一種、及び第二種永久機関の存在について、第一法則のため、存在はありえない、で良いのでしょうか?
C23-3:可逆熱機関に比べて、不可逆熱機関の効率は何故悪いのでしょうか?
C23-4:金融派生資産の価格を決める、Black Scholesの偏微分方程式が熱伝導方程式に対応している理由は何故でしょうか?
多くの質問ですがお答えをいただければ幸いです。


R23: 学問に王道なしといいますから熱力学についても時間をかけて取り組んでください。次の答えはあくまで私の考えですから参考程度にして、さらに検証されるよう願っています。

R 23-1:カルノーサイクルを逆転させる。これ以外の方法で低温物体から高温物体へ熱を移動させることは不可能です。なぜなら【熱力学第2法則 (1) クラウジウスによる表現:第2項:熱を低温物体から高温物体へ移し、それ以外に何の変化も残さないようにすることは不可能である。 】とあるからです。ただ、世の中にはヒートポンプつまり冷房などがありますが、これは上記法則の”それ以外に何の変化も残さないようにすること”に抵触します。それはエネルギーの投入やエントロピーの発生を伴うからです。
「ひとりでに」そうなるか否かがエントロピー問題を考える際のポイントになります。「ひとりでに」とは上記クラウジウスによる表現では「それ以外に何の変化も残さないようにすること」に相当します。それはまたR23-3で述べる「準静的に」あるいは「自然に」と読みかえ可能であります。このように熱力学は「自然とは何か?」という根源的な問いかけに対しても意味深長な示唆を与えています。

R23-2:第一種永久機関は熱力学第一法則により、第二種永久機関は熱力学第二法則によりそれぞれ実現不可能です。第二種永久機関は熱力学第一法則に矛盾しません。熱力学第二法則が要請されるゆえんです。

R 23-3:摩擦(熱の発生)によります。【熱力学第2法則 (3) プランクによる表現:摩擦により熱が発生する現象は不可逆である。 】とあるからです。摩擦/熱の発生、抵抗/温度差/損失の存在、不可逆変化、非準静過程などこれらはみな同一現象の異なる表現です。カルノーサイクルは準静過程を前提に成立する可逆過程であります。ところが準静過程の定義は極めてtrickyといえます。
つまり、準静過程とは動いているか動いていないか分からない位の緩慢な動きとなります。この動いているのに動いていないとする扱い方は「誤差論」の知識があれば容易に理解できます。私は準静過程を許容誤差の正または負の方向への累積と捉えています。これだと定義により矛盾は生じません。なお熱機関の効率に関する詳細は図b20-2並びに式(1.15)を参照願います。

R 23-4:せっかくのご質問ですがBlack Scholesの偏微分方程式の知識がありませんので、それが熱伝導方程式に対応しているかどうかも分かりません。金融派生資産の価格決定シュミレーションに用いる関係式と推察されますが、シュミレーションは検証結果が妥当であれば数学モデル自体は任意に選択できます。したがって複数のモデルで比較検討する方法をお勧めします。金融派生商品と熱伝導現象との理論的対応に蓋然性があるとしても、現実への適用可能性はひとえに検証結果次第です。これら問題ではモデルの形式的論理性よりむしろ結果に対する責任意識が問われます。