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タンクモデルによるエントロピー増大則

図b22 タンクモデルによるエントロピー増大則


b22-1 熱力学といえばエントロピー
熱力学
が敬遠される理由はエントロピーという得体の知れない概念の登場にあると思われます。時折耳にするエントロピーの法則とは、エントロピーが存在するという法則か、エントロピーが発生するという法則か、はたまたエントロピーが増大するという法則か、このようなことについて考えて見ます。

エントロピー増大則
  1. 系内に不可逆変化が起こったときは断熱系のエントロピーは増大する。
  2. 断熱系は平衡状態で最大のエントロピーを持つ。

最初に用語法について整理します。可逆変化とはb12で述べた振り子モデルのような時間対称的な現象を指します。再び元の状態に戻した場合に途中の過程がすべて打ち消されて元の状態が再現できる変化です。カルノー・サイクルのような仮想的機関のみがこれに該当します。つまり現実の現象はすべて熱の発生をともなう不可逆変化であります。断熱系とは外部と熱のやりとりをしない系を指します。平衡状態とはもうそれ以上変化のしようがない最終的な状態です。
次にエントロピーの法則とはエントロピー増大の法則を省略したものでエントロピー増大則ともいいます。断熱系のエントロピーは減少することがありません。これはb20において式(1.11)並びに式(1.16)として既に示した通りです。カルノー・サイクルは可逆過程ですからエントロピーは発生しない。つまり式(1.11)の等式が成り立つ。一方、通常の熱機関は不可逆過程ですからエントロピーが発生する。つまり式(1.16)の不等号関係になる。閉鎖系ですから発生したエントロピーは逃げ場がなくその結果としてエントロピーは増大します。

b22-2 エントロピー概念は物質や情報にも適用可能
熱力学はその成立の歴史から明らかなように気体の持つ熱の正体解明を巡って展開されました。その過程でエントロピーという概念が確立され、さらに次の段階でマクロな熱現象はミクロな分子運動に還元して説明できることが判明しました。つまり熱現象が分子の分布や運動の状態に結びつくのであればエントロピー概念は物質や情報にも適用可能となります。残された唯一の問題はマクロとミクロの対応づけですが、これは統計や確率の理論によって克服されました。
物質、エネルギー、エントロピー、情報を巡る相互関係が明らかになり、さらにマクロとミクロが対応づけられ熱学系と力学系が結びつく。次の展開として生命現象や秩序形成過程も解明されてくれば、これらの知見を現実問題解決のために応用するのは自然の成りゆきといえます。

b22-3 タンクモデルによるエントロピー増大則の表現
エネルギーあるいは熱量を図b22のように水で表します。周囲から隔離された図b22のような系を閉鎖系と呼びます。最初は左図AとBのように水位差がありますが時間の経過とともに右図Cの状態に移行します。左図の水位差がある状態をエントロピーが小さいといい、一方右図の水位差がない平衡状態が最大のエントロピーに相当します。
図b22に大きい矢印で示すようにエントロピー増大則の結論は変化には方向性がありその逆は決して起こらない点にあります。そして最終的には図b22状態Cに示す平衡状態に至りこの場面では情報量も最小になります。したがってエントロピー増大則とは安定化あるいは平均化に向う法則といえます。これは同時に平和、差異の解消、死ともいえます。問題はその過程で何が起きているかにあります。
これに絡んで、 イリヤ・プリゴジン(Ilya Prigogine:1917-2003) は熱平衡から遠く離れた開放系において現われる対称性の低い巨視的構造を巡って「散逸構造理論」を提唱しています。この局所的な秩序形成過程の存在が時間、歴史、生命、進化、価値、意味などに説明原理を与えるとされます。電脳経済学ではこの内容には踏み込んでいませんがこれらを網羅的に捉えて「文脈依存性」と呼び歴史解釈に結びつけています。なお散逸構造と哲学との絡みは情報ji3-4に触れています。

参考資料: [追加:2013年11月10日]
(1) エントロピーとは何か? 理系インデックス