電脳経済学v6> c経済系1> c36 マクロ経済循環
(当初作成:2006/10/06 ) (一部修正:2006/10/10 :2006/10/17:2006/11/07)


図c36 マクロ経済循環 [出所:参考文献(1)] 


c36-1 ケインズ理論の再確認
ケインズ経済学の特筆すべき意義は有効需要の原理を通してそれが成立する背景としてのマクロ経済の枠組みを解き明かした点にあります。このページでは図c35ケインズ理論の基本構造図c30市場経済の仕組みとの間に図c36マクロ経済循環を置いて現行経済系の基本構造を明らかにします。なお「市場経済の仕組み」「現行経済モデル」「閉鎖系2部門モデル」「マクロ経済の枠組み」「現行経済系の基本構造」などの用語法はいずれも内容的には同義であります。ここでの論点はケインズ理論が現行経済系への道筋を開いた事実を再確認することにあります。なお主題である図c30市場経済の仕組みを巡る批判から図d10代謝モデルへの展開についてはそれぞれのページに詳述しています。
ちなみにマクロ経済循環の考え方はフランスの重農主義フランソワ・ケネーが『経済表』(1758)として最初に提示しました。ケネーは時の国王ルイ15世の侍医でしたが後に経済学に興味を持ち社会経済を生物体に見立てて血液循環からこの構想を得たと伝えられています。J・M・ケインズのみならずアダム・スミスカール・マルクスもケネーの経済表を下絵にして自らの経済学を打ち立てました。この文脈を辿るまでもなく経済を人体に対応させて捉える着眼は時代を超えて極めて有効と考えます。

c36-2 マクロ経済循環の概要
マクロ経済循環の概要を図c36マクロ経済循環に基づいて説明します。図c36は末尾の参考文献(1)が出所ですが作成者の責任において次のようなマイナーな修正を加えています。原図は反時計回りとなっているので垂直軸にリフレクトをかけて背面から見た配置にします。本サイトでは貨幣循環は赤色矢印時計回りに統一していますのでこれで配置上の対応づけができます。次に用語法ですが図c36での「財・サービス市場」「生産要素市場」は図c30ではそれぞれ「商品」「生産要素」としています。「三面等価の原則」に関しても両図の対応関係は一目瞭然であります。
両図の顕著な差異は図c36には「金融市場」「政府」「海外部門」があるのに対して図c30ではこれらが割愛されている点です。その理由は図c30が参考文献(2)を下敷きとしているからです。図c30並びに図d10では金融自体がフロー財なるが故に「金融市場」は「商品」市場に含めます。「金融商品」という呼称がその妥当性を示しています。「政府」の取扱いは文献により異なりますが図c35では「政府需要」として明示してします。「海外部門」はマクロを地球レベルとすれば相殺されるので現れません。
図c35、図c30、図c36相互の対応関係は次のようになります。これを両部門の出入口で押えれば「三面等価の原則」となります。下記の説明は参考文献と若干異なりますが内容は同じです。
 ■生産部門:
   ・ 生産面からみた有効需要(総需要):消費(60)+投資(17)+政府支出(20)+貿易・サービス収支黒字(3)=100
   ・ 生産面からみた国内総生産(産出高):生産要素への支払い(95)+法人税(5)=100
 ■消費部門:
   ・ 分配面からみた国内総生産(総所得):生産要素からの受取り(95)+法人税(5)=100
   ・ 支出面からみた国内総生産(総支出):消費(60)+貯蓄(25)+所得税(10)+法人税(5)=100

c36-3 マクロ経済循環の問題点
マクロ経済循環は上記の通り全体として整合的に均衡しています。しかし、これには幾つかの問題点が残ります。ケインズ理論の場合もそうですが民間と政府が混在していて両者の役割り分担が不明確です。両者に対して共通した内部収益率、財務会計、サンクコストなどを適用する必要があります。企業の内部留保、減価償却、租税制度、資産の時価評価などにも問題が残ります。しかし根本問題は生産要素としての資本や土地などのストックを取引する「資産市場」とフローとしての貯蓄を投資に結びつける「金融市場」とが渾然としている点にあります。(⇒不動産の証券化、⇒可塑性(マレアビリティ)
つまり図c35ケインズ理論の基本構造並びに図c36マクロ経済循環はフローが対象でありストックとの対応関係が不明確です。例えば設備は減価償却の対象となるのに対して土地は却って含み資産増になります。これを具体的に述べれば微分値としてのフローと積分値としてのストックが対応していません。なぜなら経済過程全体を表す関係式が定式化されていないからです。特に政府部門のストックとりわけ国土資源の現在価値が的確に評価されず経済過程全体が検証不可能な状態にあります。公的債務の累積はその必然的結末といえます。結論としてフロー・ストック、マクロ・ミクロ、政府・企業・家計、国内・海外を巡る財務会計基準の統一化が加速される必要があります。ちなみに、フローとストックの関係が熱力学第1法則(1.1)の右辺と左辺に対応する事実が認知されればこの問題は自ずと解消に向うと考えられます。これを水の流れに例えれば、河川や水路の水は流れているが、貯水池やタンクの水さらには流域の土壌水分は蓄えられている、両者は相互に深く関係しているが取り扱いは別になります。実際に会計でも同じ考え方に拠っています。これはB/SとP/LさらにはC/Sの関係に明らかです。これらの包括的概念は「管理」であり、それは『状態量』の監視ともいえます。なお、状態量は熱力学の用語ですが、量子力学にも固有状態として現れ、その概念(本質)において共通しています。

参考文献]
(1)
『入門マクロ経済学』5 中谷 巌  日本評論社
(2) 『サムエルソン経済学』上下13版 P・サムエルソン W・ノードハスス著 都留 重人訳 岩波書店 上p42、上p104、下p737
(3)
図解雑学 『マクロ経済学』 井堀 利宏 ナツメ社