電脳経済学v3> d経済系2> d10 代謝モデル
(図5.1置換え:2004年03月29日) (一部改訂:2005年01月12日) (一部修正:2006年04月09日) (図d10-2を追加:2008年02月11日) (d10-7を追加:2010年09月11日)
代謝モデル:開放定常系3部門経済モデル
代謝モデルのイメージ:物理要素との関係を模式化

図d10 代謝モデル

図d10-2 代謝モデルのイメージ

d10-1 代謝モデルの誘導
経済過程の基本枠組みを図b42食物連鎖過程に求めます。そこにおける生産・消費・分解の各系変換系に対して図b52経済要素の変換過程(または表b52-1変換系における投入産出関係)を適用すれば図d10代謝モデルを得ることができます。図d10において資源・労働・商品・廃物からなる経済要素生産・消費・分解の各系の間を結ぶとともに、それぞれ市場を形成しています。市場にはこのほか中間財(資本財)市場や金融市場もありますが、これらも基本的に上記市場の文脈において説明可能であります。ここで資源・労働・商品・廃物からなる交換系交換モデルにより生産・消費・分解からなる変換系は前出の交換モデルから導出された変換モデルにより説明できます。
したがって経済過程の全局面は交換モデルに還元可能となり交換モデルの内実は情報交換でありその帰結は文化として社会進化に寄与します。これが代謝モデルから導出される結論つまり経済系の存在意義であります。図d10を模式化すれば図d10-2代謝モデルのイメージとなります。d12経済系のイメージもまた代謝モデルの異なる表現であり「理想化された経済系」(分解系が生産系に解消されたという意味で)への道筋を示しています。図d12-2Karl Heinrich Marx (1818-1883)目指したであろう経済系に符合しています。ただし廃物過程を考察の対象外とするか克服した結果なのかにおいて両者の差異は顕著であります。蛇足ながらエントロピー概念の意味深長性が確認されれば同図は他の惑星系にも遍く適用可能であります。

d10-2 代謝モデルの際立った特長
このように代謝モデルの際立った特長は『経済過程の全局面が交換モデルのみによって説明可能』な点にあります。さらに電脳経済学では交換行為を情報交換として捉え意識の拡大化に結びつけます。この文脈において電脳経済学は経済学と心理学の結合に収束して行きます。
資源・労働・商品が正財であるのに対し廃物は負財となり、それ故に廃棄物処理や分解部門は現在主に政府によって管理されています。電脳経済学はこの負財に対しても廃物市場として妥当な位置づけを与えています。社会的負担を意味する負財の分配を巡って近年話題となっている排出権市場の考え方あるいは租税制度に代表される各種社会的負担のあり方についても電脳経済学は首尾一貫した論拠を提示しています。負財の正財への転換は時代の要請であり社会的努力が傾注されるべき分野であります。産業革命このかたの生産技術体系は分解技術をも組み込んだ物質循環完結型技術体系への再編成が要請されます。カーボン・フットプリントの接近法は将にこの具象化に外なりません。

d10-3 内部化による環境財の定式化
現行経済モデルと代謝モデルの顕著な差異は2部門閉鎖系モデルと3部門開放系モデルの違いにあります。追加された分解部門は自然環境の経済的側面に相当し天然資源の供給や浄化還元機能全般をその範囲に収めます。このことに関連して図d70経済過程の一般形式において環境財の定式化を試みています。分解系を巡る経済系外からの入力として宇宙から地球、地球から経済の経路があります。宇宙から地球への入力は根源的資源である太陽光であり、地球から宇宙への出力はその終末形態としての廃熱であります。電脳経済学ではこの関係をエネルギー代謝と呼び代謝モデルの名称もここに由来します。ここで入力はエネルギー情報であり、出力はエントロピーと情報で物質の出入りはありません。地球系内において物質循環が完結すべき根拠はここにあります。物質循環完結の典型事例として水循環があります。水循環は完璧かつ究極的なエントロピー処理機構であり、地表の水問題はこの一環として捉える必要があります。

d10-4 地球系を地球熱機関として再定義する
前節で述べたエネルギー代謝の文脈において地球系を開放定常系熱機関と見立てて再定義する思考枠組みを地球熱機関と呼びます。地球から経済への経路をとる入力としては鉱物資源や生物資源を挙げることができます。これら資源が経済系への入力のみとすれば経済領域の拡張要請はそのまま地球資源管理のあり方を指すことになります。さらに環境問題あるいは資源問題との絡みから地球公共財自体の問い直しが迫られています。これは有限な資源の私的所有が経済発展はもとより人類や地球生命系の存続自体をも脅かす時代状況を反映するものです。これらが克服された姿は図d12-1経済系のイメージ/図d12-2理想化された経済系となり、これはd10-1において触れたように電脳経済学の究極像でありかつ第二地球あるいは惑星経済系の備えるべき要件でもあります。

d10-5 家計を管理する家事労働の正当化
系外から消費系への入力として家事労働の存在は意味深長であります。つまり家事労働は従来の経済学ではシャドウワークとして疎外された領域でした。しかし現実には家事労働は家計部門を司どる消費主体の実践的な現場であり経済過程において正当な地位が与えられるべきです。図d10に明らかなように家計部門は経済と文化を媒介するだけでなく金融商品の買い手として資本部門において主導的な役割を担う立場にあります。さらに経済系の目的文化水準の向上にあり、それは社会進化とともに人間の解放に結びついて行きます。経済系本来の使命はこのような俯瞰と洞察のもとで体現可能となります。

d10-6 貨幣循環は市場経済の仕組みと同じ

図d10において貨幣循環の表現は割愛していますが正財の場合には財の流れに逆行し負財の場合には財の流れに順行します。貨幣の流れについては図c30市場経済の仕組みにおける表示と同様になりますのでそちらを参照願います。なお代謝モデルを抽象化して表現すればd10-2代謝モデルのイメージないしd12経済系のイメージのようになります。なお代謝モデルは電脳経済学における呼称で内実は経済モデルと同義であります。

d10-7 参考資料
(1) 『地球公共財』
 グローバル時代の新しい課題 インゲ・カール イザベル・グルンベルグ マーク・A・スターン|編 FASID国際開発研究センター|訳 日本経済新聞社
(2) 『GLOBAL PUBLIC GOODS』 
I NTERNATIONAL COOPERATION IN THE 21ST CENTURY EDITED BY INGE KAUL ISABELLE GRUNDBERG MARC A. STERN -PUBLISHED FOR UNDP- OXFORD UNIVERSITY PRESS 1999