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(前面改訂:2004年07月14日)

資本モデル

図d40 資本モデル


d40-1 代謝モデルの文脈における資本モデル
代謝モデルの文脈において資本モデルを構築できるでしょうか。その前に代謝モデル体系における交換モデル並びに変換モデルの位置づけについて再確認しておく必要があります。図d40資本モデルは奥行き方向に時間軸T軸をとった3次元表示ですが代謝モデルはX−Y平面上に表現されています。生産・消費・分解の各系を変換系と呼び、その間を資源・労働・商品・廃物からなる経済要素が循環運動を繰り返しています。中心を占める生産系に対する投入財として資源・労働があり一方の産出財として商品・廃物があります。ここで、生産された生産要素としての資本は生産系自体と同義としました。経済要素は市場を形成し交換モデルで表現され、一方の変換系は変換モデルで説明されます。このX−Y平面上においてフローとしての経済要素がストックとしての変換系を巡る経済過程が代謝モデルにほかなりません。
ここで注目すべきは時間のとり方であります。一般的にシュミレーション構想では境界条件と分析期間を指定します。分析期間はさらに単位期間に分割され、単位期間は通常1年間とします。代謝モデルはこの1年間を対象とします。したがって資本モデルは分析期間に対応します。それでは「資本の分析期間は具体的に何年間か」という困難な問題に遭遇します。次にこれについて考察を加えます。

d40-2 伝統的な経済学における資本の規定
ここで深呼吸をします。つまり一旦代謝モデルを離れて伝統的な経済学における資本を巡る知見を復習します。
資本の概念規定は経済思想と深くかかわるために経済学者によって大きく異なっています。次にいくつかの事例を引用してみます。

d40-3 同定形式による資本の定式化
前節の事例は背後の論拠を割愛した結論的な言明であるとはいえ時間要因が希薄との印象を受けます。代謝モデルにもっとも近い事例は中山伊知郎の見方であります。しかしこれには現行経済モデルについての的確な理解が前提になります。資源が投入物質であるのに対して所得は産出貨幣である飛躍のもとで「媒介するもの」とブラックボックス扱いをしています。これは同定形式と呼ばれる方法です。Y=F(X)を所得=資本(資源)に対応させると関数形Fは通常未定ですから、XとYのデータからFを推定することになります。これは内部エネルギーの計算方法と一致しますが、要は資本Fを長期的な分析期間にわたり時間Tの関数として定式化できるか否かです。

d40-4 資本概念の拡張要請
自然の歴史のある時期に生命が発生し進化を遂げた結果として人類が出現し、連綿たる人間的営為の積み重ねによって今日まで経済社会は進展過程を辿って来ました。こうして見ると現在の現象世界はこれまで集積された歴史的成果の現れと捉えることが出来ます。つまり広い意味で資本とは現在の現象世界そのものを指すことになります。図d40資本モデルはこの時空的な文脈から経済系を表現したものです。横方向のX軸に資源、縦方向のY軸に労働、長期的な時間として両軸に直交する方向のT軸に資本を当てればこの3軸は生産要素に対応します。したがって代謝モデルにおける資本概念は上記の古典派に一致することになります。
通常の場合、資本といえば生産資本を意味しますが広い意味では家屋などの私財は家計資本、道路や公園などの公共財は社会資本、山や川や海は自然資本と呼ぶことが出来ます。さらに人間資本という呼び方もあります。どこまでが経済学の対象範囲か計量可能性や制度的な枠組みなどはさておいて電脳経済学では終始一貫して熱力学第1法則で述べた内部エネルギーの考え方を基本に据えています。これは熱力学における内部エネルギーと状態量の関係が貸借対照表における資本とストックの関係に通底すると考えるからです。