電脳経済学v3> f用語集> ld 土地 (land) (当初作成:2007年07月01日)

1.土地の正体は何か?
土地は極めて多義的かつ捉え難い概念である故に用法や文脈に十全の注意が求められる。土地は広義には陸地、海洋、大気からなる地球系自体を意味する一方で狭義には一筆の区画を指す場合もある。両者はマクロとミクロの連続的な結合関係にありこの重大性は強調し過ぎることはない。生命、人類、文化、国家、資本といった包括的な概念さらには地球環境や生態系に関連する今日的な各種問題は土地属性を巡る解明過程において本来の姿が明確化されて行く。換言すれば上記の根本問題に取り組むには土地本質の直視が必須となる。

2.土地の捉え方
A. 土地の特殊性
土地は一般財と異なり次の特殊性を備えている。
(1) 自然生態系を支える基盤をなし本源的生産力と呼ばれる土地固有の生産力を持つ。
(2) 土地は自然史的に人類出現の遥か以前から地球上に存在していたが人類史的には強権的主体による陸地取得によりその権利が発生した。
(3) 地球上の土地は量的に有限であり希少性原理により自由財から経済財に移行した。経済財成立には国家主権並びに所有主体/管理主体の存在が前提となる。
(4) 土地は労働・資本と並んで生産要素を構成する。資本が生産された生産要素であるのに対して土地と労働は根源的生産要素と呼ばれる。その理由は土地が労働によって生産できないからである。ここで経済要素の出現順序は意味深長である。
(5) 経済学において土地は労働の対象とされる。一方、土地はしばしば資源や自然と同義として扱われる。土地は極めて文脈依存的な概念であり用語法には細心の注意が求められる。この具体例を挙げれば特定された土地には水環境や地質・土壌・気象・植生条件さらには文化的・歴史的背景なども暗黙裡に含まれる。この意味で土地は特定空間の表徴といえる。(図b40の概念図を参照
(6) 土地は移動不可能でこれを場所固定性という。これは可塑性零と同義になり、この意味で土地は一定範囲の空間や座標自体を指す。
(7) 専門用語としての土地は土地分類、土地区分、土地利用、土地政策、土地所有、土地台帳、土地情報、土地神話など熟語形式が多用される。その一方で土地自体は自明の日常語として適宜解釈される。つまり土地は未定義のまま使用されている”かなりあやふやな”専門用語といえる。
(8) 土地は微視的には多辺形平面座標系として巨視的にはこの有限曲面連続体として表現できる。
(9) 自然としての土地は物理的な連続体であるが社会的には分割可能で主権並びに所有の対象となる。
(10) 前記(7)および(8)に示す土地の物理的連続性は経済学における集計問題の克服可能性を示唆し、ここでGISの有効性は特筆に値する。
(11) GISは地球レベルでの座標具備性並びに土地属性のレイヤー形式による表現にその特徴を見出せる。
(12) 「エコロジカル・フットプリント」は地球上の「土地」に対する需要と供給の収支計算に基づき持続可能性を評価する方法論で、土地区分に対応させた土地面積を直接的にパラメータとする点において他に類例のない画期的な構想である。
B. 土地の位置づけ
前項に示す土地の特殊性を踏まえて本サイトにおける土地概念の展開は図 ld-1土地の位置づけのように表現できる。図 ld-1の要旨を列挙すれば次の通りとなる。

図 ld-1土地の位置づけ

(1) 現象世界は物理要素の働きとして捉えることができる。
(2) 現象世界は生命系の文脈から「拡張された生態系」として記述できる。ここでいう生態系は食物連鎖過程を指す。
(3) 「拡張された生態系」の考え方によれば人間社会自体が「経済を生活様式とする」地球生態系の一部となる。
(4) 「拡張された生態系」は物質循環の完結を表現している。
(5) 自然現象は「拡張された生態系」の下部機構をなす。
(6) 土地の本源的生産力とは「分解者」としての役割りを意味する。

3.大地のノモス
『大地のノモス』(1950)[5.(4)]はドイツの政治学者・公法学者カール・シュミット(1888-1985)が晩年にその思想を集大成して著した作品である。それまでの論争的色彩の強い彼の業績のなかにあって老成を感じさせるこの作品には彼の理論体系が整然と記述されている。中心命題である陸地取得論の展開に加えて近代国家論、戦争と平和、海洋問題、領土問題などの現在解決を迫られている国際法上の諸問題についても示唆に富む。その内容は広範多岐にわたりかつ難解であり筆者の理解能力を超えるが下記により論旨分析を試みた。
『大地のノモス』では陸地取得が発見と先占に由来すること、秩序形成と国家成立が陸地取得に由来すること、土地所有が国家秩序に由来すること、国家統治が土地分割に基づき実現されることなどが厖大な事例を引用しながら論証され下表4国家論に結びついて行く。その要諦は「秩序形成の土地依存性」にあり、人間が土地を規定するのではなく土地が人間を規定するという逆説真理の指摘にある。
シュミットによれば一連の法史的な知識は神話的な起源に結びつくもので地理学からは習得されなかった。さらに彼は次のように結論づけている。新しいノモスの問題はより広範な自然科学的な工夫によっても解決されない。人間の思考は再び自己の地上的現存の根源的な秩序へと志向しなければならない。それは大地の意味領域探求においてのみ平和を求める者たちに大地の新しいノモス思想が開示されると。
これらを巡る筆者の見解は次の通りである。シュミットのいう根源的秩序とは創世記第2章楽園[5.(3)]を指しこれは熱力学における「カルノー・サイクル」の機構とりわけ準静過程に相当する。シュミットは宇宙進化過程の再現可能性を巡る現代科学の知見に照らして自然科学の到達点とその可能性を過小評価している。つまり問題の在処は倫理や秩序のあり方と自然科学的知見の乖離にある。例えば超ひも理論は自然科学の言語で記述された現代版神話そのものである。

4.主体論との対応関係
『大地のノモス』の論旨を整理して表 ld-1主題とその構成要素を作成した。主題欄における番号は主題出現の時系列順位を示す。主体欄は人間を客体欄は自然を表す。各主題に共通する論点は主体に先行して客体が発生母体をなすことにある。つまり論点の所在は主体と客体を巡る出現順序逆転に伴う克服困難性にある。

主題

主体

媒体

客体

 1 創世記

人間

宗教

自然

 2 哲学

人間

倫理

論理

 3 大地のノモス

人間

規範

大地

 4 国家:成立要件

国民

主権

領土

 5 経済:生産要素

労働

資本

土地

 6 環境論

人類

文化

環境

 7 宇宙論

生命

進化

宇宙

表 ld-1 主題とその構成要素

したがって媒体は主体が客体を克服するための社会装置の役割りが課されそれは文化の概念で総括できる。ここに文化とは人間理性の歴史的成果全般を指し創世記[5.(3)]における知識の木がそれを象徴的に示す。つまり主体は媒体を内部化するかあるいは媒体を客体と取り違え、その結果として客体は不可視化される。結論として次の点が指摘できる。
(1) 媒体は主体により形成された人工物であり本質的実体がない。つまり大脳新皮質の産物としての媒体は間断なき検証の対象となる。
(2) 現象世界にあって主体は相対的な存在であり条件に応じて盛衰生滅の過程にある。
(3) 「倫理」は自然と人間の関係から第一義的に措定され人間内部のあり方は第二義的に規定される。

5.参考資料
(1) 土地 (Wikipedia)
(2) 文化 (Wikipedia)
(3) 『バイリンガル聖書』 旧新約聖書 いのちのことば社
(4) 『大地のノモス』上・下 カール・シュミット著 新田邦夫訳 福村出版 1976年6月20日