電脳経済学v3> b自然系> b30 物理要素とは何か
(一部修正:1998年1月5日)(追加修正:2004年7月10日 )(図配置修正:2005年9月16日)(全面改訂:2007年07月10日)

物理要素

図b30-1 物理要素からの視座

図b30-2 現実世界と物理要素の関係

1.物理要素からの視座
物理要素とは「物質・エネルギー・エントロピー・情報」をセットとした総称を指します。現実世界における各種現象は物理要素に対応させて認識できると同時に「物理要素の働き」として意味を持ちます。図b30-1に示すように現実世界を4方向の視座から捉えることによって現実世界が平明かつ正確に記述できると考えます。具体例として一枚の新聞紙を取り上げて、物理要素に対応させて記述すれば次のようになります。


2.具体例に基づく記述

(1) 物 質:

新聞紙は寸法や重さをもつ植物繊維を原料としたパルプの薄い層であります。その上に印刷された黒いインクもまた物質であります。物質の証は質量や体積を始めとする物理的属性を備えていることです。物質が微細な粒子からなり、この世界を構成する基本的な要素だとする考え方は古今東西を通して共通しています。しかし、一枚の新聞紙を物質の面のみで説明し尽くすことは出来ません。さらに別の視点から捉えて見る必要があります。(用語集:物質

(2) エネルギー:
新聞紙を燃やせば一定の熱や光を発します。熱や仕事に転じ得る可能性がエネルギーです。エネルギーは物質の移動や運動にかかわる物質の属性と考えられて来ましたが、これを反転してエネルギーを中心に据えて物質を説明する考え方も成立します。熱力学はこの立場によっています。いずれにしても両者は条件により相互変換が可能であり、いわばコインの表裏のような関係にあります。しかし、これでもまだ十分ではありません。エネルギーはその状態を指定しなければ計量化できないし意味もありません。状態を指定するとは量のみならず「質」についても考察の対象に加えることを意味します。そこで次にエントロピー概念の導入が要請されることになります。(自然系:b12エネルギー保存則(用語集:エネルギー

(3) エントロピー:
新聞紙も古びたり燃やした後は役に立たないゴミの塊や熱に過ぎません。古新聞は情報源としてはもとより物質やエネルギーの面からも役割を終えた無用物となります。無用性ないしもうそれ以上変わりようがないのがエントロピーの特性です。物質・エネルギー・情報は有用性を前提に成立する物理要素ですが、エントロピーはこのいずれとも反立(アンチテーゼ)関係をなし無用性を普遍的に表現する概念であります。上述のように無用性を示すのがエントロピーであれば、情報は逆に有用性あるいは可能性を表わす概念に相当します。物理要素のなかでも、情報概念は通信理論として最後に定式化されました。しかもエントロピーと情報は同一の基本式で表現できます。(b24-1式(5)参照) なおエントロピーは次の日常語から共通概念を抽出してイメージを描くのも現実的な接近方法であります。
エントロピー概念を内包する用語:無用性、無効成分、不可逆性、一方性、拡散化、廃熱、熱、一様性、均等性、汚れ、低級化、廃物、排泄物、ゴミ、陳腐化、無秩序、乱雑さ、情報が失われた状態、終末、死、安定性(順序不同)。(自然系:b22エントロピー増大則)(用語集:エントロピー

(4)情 報:
新聞紙には読者の知りたい社会の新しい出来事が印刷してあります。さらに前述の寸法や重さ熱や光もまた情報によって表現される外ありませんから物質やエネルギーから情報を取り去れば認識作用自体が成り立たなくなります。次に述べるように情報は、物質やエネルギーと比較してその性質が著しく異なっています。物質やエネルギーは総量において保存されます。ところが、情報は生命系の存在を前提に時の経過とともに一方的かつ累積的に増大して行きます。この特性は「エントロピー増大の法則」に則して「情報増大の法則」と呼ぶことができます。生命体の存在と時の経過を前提に無用性と有用性がともに増大する点は注目に値します。
(用語集:情報

3.現実世界と物理要素の関係
現実世界と物理要素の関係について図b30-2に基づいて説明を加えます。物質とエネルギーは相互等価性が証明されていて原理的に相互変換が可能であります。つまり両者は保存則のもとにあります。しかしエントロピーと情報はともに増大則に支配されます。この関係を図b30-2の横軸と縦軸に示します。とりわけ情報は生命体に固有の概念であり生命体は自己保存目的にために情報を内部化しています。なお代謝とは情報/有用性を内部化するとともにエントロピー/無用性を外部化する働きを指します。進化過程や免疫機能の本質さらには意識の拡大化は外部情報の内部化の文脈において説明可能であります。
このことから生命体は最終的にビッグバーンへの回帰を目指していると推測されます。図b30-2において物質とエネルギーは保存則水平軸の左右に引っ張られています。同様に、情報とエントロピーも増大則垂直軸の上下に引っ張られています。ここで情報とエントロピーはそれぞれ秩序と破壊を表しています。さらに水平と垂直はそれぞれ引力と斥力に対応しています。生命を巡る現実世界が保存則と増大側の拮抗作用のもとに成立している様相が同図から読み取れます。なお両図中心部に示す「現実世界」は従来の呼称である現象世界あるいは実在世界と同じ意味で用いています。