電脳経済学v3> b自然系> b24 熱力学のまとめ
(当初作成:2004/07/28)(一部追加:2004/09/25 :2006/01/17 :2007/07/14 :2011/04/01)

氷川丸:往年における北米航路の花形客船

           氷川丸:熱力学の視点から
船を動かしている燃料は最終的に熱になって海水や空気の温度を少しあげて役割りを終えます。これを逆行して海水や空気から熱をとって船を動かすことは熱力学第1法則に反しません。しかし熱力学第2法則はこれを不可能とします。熱力学ではこのエネルギーの流れの一方性を不可逆過程と呼びます。不可逆とは取り返しがきかないことです。ここで「準静的」という熱力学用語は意味深長です。これは日常用語では心静かな生活態度を指し、仏教用語で言う「涅槃寂静」の無時間的絶対境に相当します。

図b24 氷川丸:往年における北米航路の花形客船 (山下埠頭にて)


b24-1 熱力学の基本法則
これまでに述べた「熱力学の基本法則」は次の関係式として整理できます。詳細な説明は該当ページを参照願います。

熱力学第1法則:     dU=dQ+dW ……………(1)
熱力学第2法則:    dQ=TdS …………………
(2)
外部からの仕事:    dW=-pdV ……………………………(3)
状態量の関係式:    dU=TdS-pdV …………………… (4)
ボルツマンの関係式: S=klogW …………………………… (5)
マクスウェルの関係式
              (∂p/∂S)V=−(∂T/∂V)S …………(6)
              (∂S/∂V)T=(∂p/∂T)V …………(7)
              (∂S/∂p)T=−(∂V/∂T)p……(8)
              (∂V/∂S)p=(∂T/∂p)S(9)

ここにd:微分記号、U:内部エネルギー、Q:熱量、W:仕事、T:絶対温度、S:エントロピー、p:圧力、V:体積、k:ボルツマン定数、W:状態数(ミクロ状態を組み合わせた総数で乱雑さの度合いを表す。これは可能性ともいえこの絞込みは縮約と呼ぶ。(5)のWは(3)の仕事ではない。)。なお(5)はシャノンによる情報量の式と同形であります。上記の関係は準静的可逆過程に限ります。状態量の関係式(4)は熱力学第1法則(1)と熱力学第2法則(2)を統合的に表現した仮称です。
ボルツマンの関係式(5)はマクロな状態量Sとミクロな状態の総数Wを対数関係で結合しています。これは情報からエネルギーへの変換を意味し、特記すべきはこれが日本の大学で現実化された事実です。マクスウェルの関係式(6)-(9)は、熱力学関係式(4)においてdU=0と置けばマクロな状態量である4変量 (T,S,p,V) 間の関係を示します。

b24-2 熱力学から物理要素へ
「物理要素」とは「物質エネルギーエントロピー情報」をセットとした総称を指します。これらの相互関係は熱力学の基本法則として前節に示す通りです。「物理要素の働き」とは「物質循環」「エネルギー代謝」「エントロピー処理」「情報蓄積」をセットとした総称を指し、これは物理要素の現実世界へのかかわり方を表しています。この作業の狙いは物理要素から経済要素への対応づけにあります。この考え方は要素還元主義と呼ばれ、原子と分子の対応関係はその典型的な事例です。

b24-3 内部化が鍵概念
本ページの結論は次のようになります。熱力学第1法則(1)における内部状態dUは、その外部関係を示すdQ並びにdWを説明変数として熱力学統合法則(4)のように表現可能であります。つまり熱力学はエネルギー保存則を熱平衡状態にある物理系の状態変数のみで表現可能にします。この手続きは内部化の概括可能性さらには生命進化の内実を示唆しています。
内部化は電脳経済学全体を通して鍵概念となります。例えば「経済過程の一般形式」では生産資本文化さらには地球や宇宙までもが経済過程に内部化されています。この文脈から環境財もまた内部変数として定式化可能となり地球環境問題にも道筋が開けると考えます。事実、環境内部化に基づく環境会計は先進的な企業によってすでに実施されています。
人間が内的宇宙とする理由は外的宇宙の「内部化」として説明可能であります。つまり一人の人間はその”外部のめくり返し”として存在するものであり、一人一世界の論拠も哲学の展望もここに見出すことが出来ます。これを反転すれば労働の本質は内的宇宙の外部化としての自己実現にあります。蛇足ながら上記(4)式はB/SとP/Lを統合した資本勘定に相当します。この環境内部化の文脈を辿れば経済過程は社会会計の体系に収まることになり、ここでGISのもつ意義は特筆に値します。