電脳経済学v3> f用語集> jun 循環型社会 (a Society Embedded in Natural Cycles) (Recycling Based Society) (Circulating Society) (Material-cycle Society) (英訳は未確認:使用注意) (当初作成:2006年11月18日) (一部追加:2006年11月19日) (一部追加:2006年11月23日) (一部追加:2006年12月11日)

1.定義事例
(1)廃棄物の発生を抑制するとともにその再利用・リサイクルを促進して資源として循環利用する社会。
(2)廃棄物の減量化・再資源化を優先して資源循環の視点で社会のあり方を捉え直す立場。
(3)自然界における物質循環をモデルとして人間社会の再設計を試みる思想。(電脳経済学:代謝モデル

2.時代状況
「循環型社会形成推進基本法」が2000年5月に成立し、これに関連する法的な整備が進められている。法律の目的やその理念は時代の流れに沿うもので異論を挟む余地はない。日本は資源を外国から輸入してそれに労働による付加価値を与えて工業製品として輸出してきた。この加工貿易立国は明治以降の日本にとって国是であった。ところが輸入と輸出の物質収支のバランスは国内の随所に廃棄物として累積されてきた。

3.よーく考えよう !
循環型社会はゴミを資源化して物質循環の完結を狙うものである。ところで、この物質は資本なのかはたまたゴミなのか? つまり正財か負財か? その所在や管理主体は? 計量可能か否か? その評価方法は? そもそも前記の
「循環型社会形成推進基本法」は「廃棄物処理法」(1970年成立)の上位法として制定された基本法である。このPCも正規に廃棄すれば煩雑な手続きと\7,350かかるが回収業者に渡せば時価買取りである。不法投棄はさておいても法律を遵守すれば不利益になる社会を誰がどう正当化できるのか?

4.経済学の教え (2006年12月11日追加分)
経済学では生産と消費は“対概念”として扱われ商品/市場が両者を結合する。この意味で商品は経済学の中心命題である。生産系において資源と労働が投入され商品と廃物が産出される。一方、消費系においては商品と家事労働が投入され労働と廃物が産出される。ところでこの資源はどこから来て廃物はどこへ行くのだろうか。かって自然や環境が広大無辺とされた時代には自然が資源を提供し環境が廃物を収容してくれた。しかしこの一方通行状態が続けば、いずれ資源は枯渇し環境は破壊される。したがって廃物から資源への物質循環の完結が要請される。これには生産系と消費系に分解系を加えて経済過程を再構成する必要がある。現行経済学では赤字の部分が無視(disregard)され法律がこの不備を補完している。
廃物が経済要素の一つとして経済系に内部化されれば人間の意識からゴミという概念自体が消滅する。電脳経済系における商品と廃物の関係は循環器系における動脈と静脈の関係に相当する。ちなみに落ちこぼれやいじめの問題も文脈は同じである。

5.エントロピー論との絡み
循環型社会に呼応して逆工場やゼロエミッションという心地よい比喩が喧伝され、その社会がすぐにも実現可能なように伝えられている。物事には出来ることと出来ないことがあり、出来る場合でも踏むべき一定の手順がある。物質循環や経済循環は大本を辿れば物理法則に準拠しているので両者の関係を明確にしないと無用な混乱を招くことになる。両者の関係については下記8.参考資料に明示されている。

6.代謝モデルとの関連
上記1.定義事例(3)に関する補足的な説明は次の通りとなる。
(1)物理要素の働き(図b32)1.物質循環:物質循環は物理要素の働きの文脈において意義があり単独には意味をなさない。つまり物質循環はエネルギー代謝、エントロピー処理、情報蓄積との関連性のもとに成立する概念である。
(2)食物連鎖過程(図b42)における物質循環:分解系は土地ないし自然を指すので〈微生物+鉱物系〉と捉えることが出来る。なお食物連鎖過程は基本的に炭素/窒素循環と同義である。
(3)水循環(図ha1-1)としての物質循環:物エントロピーは熱エントロピーに転化され廃熱として処理される。この一連の流れにおいて水の役割りは決定的であり、この水循環は物質循環の理想型をなす。ここに物エントロピーは廃棄物/廃物を、熱エントロピーは廃熱を指す。
(4)代謝モデル(図d10)現行モデル(閉鎖系2部門モデル)に廃物の経路と廃物を資源に変換する分解系を追加して得られる開放系3部門モデル。循環型社会における地球経済モデルを表現する。
(5)理想化された経済系(図d12-2)プラネットエコノミー(Planet Economy)(9.3-9)の理想像でゼロエミッションが実現された姿を描き出している。宇宙空間レベルでの普遍性を備える惑星経済系で分解系は生産系に内部化されている。生産と消費からなる同じ2部門でも現行の閉鎖系に対してこの場合は開放系であり両者はその含意において本質的に異なる。

7.エコロジカル・フットプリントとの対応関係
エコロジカル・フットプリントの考え方(表-1)によれば次のことがいえる。地球レベルで物質循環が完結するにはオーバーシュート(総需要-総供給)≦0、総需要/総供給≦1の条件が要求される。換言すればオーバーシュートとは先進工業国における廃物の停滞程度(平均滞在時間)を意味しエントロピー問題と同義となる。なお国別にオーバーシュート零を目指せば国際貿易の否定を意味するので現段階での意義は国別指標の設定ないし組織間における比較基準の定式化となる。

8.参考資料
(1)物理要素の働き:1.物質循環

(2)循環型社会を実現するための20の視点:エントロピー学会
(3)『循環型社会を創る』 日本エントロピー学会 藤原書店